先生から「次の材料委員会にかけてみる」と言われると、多くの医療機器営業はひと安心します。案件が最終段階まで来たように感じるからです。しかし実際には、ここからが営業にとって最もコントロールしにくい段階です。営業は出席しない会議、ほとんど面識のない委員、そしてずっと前から決まっている開催日。
診療材料委員会は価格交渉の場ではありません。営業が決めていない締め切りに向けて、根拠をそろえる場です。
この記事では、日本の病院が公開している規程をもとに、材料の採用を審議する委員会がどう動いているのか、何を見ているのか、そして申請前、場合によっては試用前に何を準備しておくべきかを整理します。院内採用から発注までの全体像は病院は医療機器を実際にどう購入しているのかで解説しています。この記事では、委員会の段階だけを扱います。
病院の「材料委員会」とは
米国の病院では、こうした役割を担う組織を「価値分析委員会(Value Analysis Committee、VAC)」と呼ぶことが一般的です。日本の病院ではこの名称はほとんど使われず、「診療材料委員会」「医療材料等委員会」「機種・診療材料選定委員会」など、病院ごとに名称が異なります。診療材料と医療機器を別々の委員会で扱う病院もあり、たとえば香川県立中央病院の規程には、診療材料委員会と医療器械委員会がそれぞれ記載されています。
名称は違っても、果たしている機能はほぼ同じです。新しい材料や機器を、病院として採用するかどうかを決めることです。
公開規程から見る委員会の仕組み
いくつかの公立病院は、委員会の規程を公開しています。それらを並べると、委員会の動き方がかなり具体的に見えてきます。
| 病院 | 規程の内容 |
|---|---|
| 川崎市立川崎病院 | 医療材料等委員会が、新規購入の採否、既採用品の削除、試用、適正な使用と管理を審議。委員は医師・歯科医師、看護師、技術職、事務職などで構成。新規購入を希望する者は所属長と協議のうえ、開催の1週間前までに申請。購入後は使用状況を委員会に報告 |
| 川崎市立井田病院 | 機種・診療材料選定委員会が、年間購入見込みが一定額以上の新規診療材料や、一定額以上の医療器械の仕様決定・機種選定を審議 |
| 埼玉県総合リハビリテーションセンター | 新規の診療材料等の購入には、診療材料等検討委員会の承認が必要。対象には特定保険医療材料も含まれる |
出典:川崎市立川崎病院医療材料等委員会要綱、川崎市立井田病院医療器械仕様決定、機種・診療材料選定委員会要綱、埼玉県総合リハビリテーションセンター診療材料等検討委員会要綱
この表から、営業が見落としがちな点が四つ浮かび上がります。
**一つ目、申請するのは営業ではなく院内の人です。**川崎病院の規程では、新規購入を希望する職員が所属長と協議したうえで申請します。営業の資料は、申請者を通じてしか委員会に届きません。申請者と所属長の両方が納得していなければ、申請そのものが出てきません。
**二つ目、締め切りは病院が決めています。**川崎病院では開催の1週間前が申請期限です。1日遅れれば、次回の委員会まで待つことになります。
**三つ目、委員会は「増やす」だけでなく「減らす」も審議します。**川崎病院の委員会は、新規採用と並んで、既採用品の削除や死蔵化の防止も所掌しています。医薬品の分野では、旭川医科大学病院のように、1品目の申請につき1品目の削除候補を選ぶ「一増一減」を原則とする病院もあります。材料でも、「何と置き換えるのか」を問われることは珍しくありません。
**四つ目、採用されても終わりではありません。**川崎病院では、購入後に使用状況を委員会へ報告することが定められています。採用されたのに使われなければ、次は削除の対象になります。
審議の流れ
細部は病院によって異なりますが、流れの骨格はよく似ています。
| ステップ | 営業が確認すべきこと | よくある遅れ |
|---|---|---|
| 院内での要望 | 誰が申請者になるのか。所属長との協議は済んでいるか | 所属長の了承が取れず、申請が出せない |
| 申請書の作成 | 必要な資料がそろっているか。削除候補は決まっているか | 資料が一つ欠けて差し戻される |
| 試用 | 誰が、どのくらいの期間、どう評価するか | 試用は終わったが、評価をまとめる人がいない |
| 申請期限 | 次回の開催日と、その何日前が締め切りか | 数日遅れて、次回に回される |
| 委員会での審議 | 開催日と、結果がいつどう伝えられるか | 委員の質問に、資料が答えられていない |
| 採用後 | 院内コードの登録、発注の担当、使用状況の報告 | 採用されたが、使われずに削除候補になる |
委員会が問うこと、営業が準備すべきこと
委員会が質問を営業に送ってくることはありません。それでも、委員会が答えようとしている問いはほぼ決まっています。以下は、委員会の問いの順に整理した準備リストです。
| 委員会の問い | 準備するもの | 準備を始める時期 |
|---|---|---|
| 承認・認証は取れているか | 薬機法上の承認・認証(または届出)の情報、クラス分類 | 院内に入る前 |
| 保険上どう扱われるか | 保険適用の区分(A1・A2の包括か、Bの特定保険医療材料か)と償還価格 | 院内に入る前 |
| 臨床的に本当に良いのか | 文献、臨床データ、院内試用での使用記録と評価 | 試用前〜試用中 |
| 今使っているものと比べてどうか | 現行品との仕様比較、1回あたり・年間のコスト比較 | 試用前 |
| 何と置き換えるのか | 削除候補となる現行品と、切り替えの段取り | 申請前 |
| 現場の手順は変わるか | 使用手順、現行手順との違い、試用で出た課題 | 試用中 |
| 教育はどのくらい必要か | 説明会や研修の計画、所要時間、担当者 | 試用前 |
| 供給と保守は安定しているか | 供給体制、納期、関連する機器や消耗品の提供方法 | 申請前 |
| 使用後の処理はどうするか | 廃棄方法、再処理の可否 | 申請前 |
この中で特に日本らしいのが、保険上の区分と削除候補です。
保険上の区分によって、病院の採算の見え方は大きく変わります。厚生労働省の資料にあるとおり、A1やA2に該当する材料は技術料に包括されて評価され、病院は製品価格を別に請求できません。一方、Bの特定保険医療材料は技術料とは別に請求できます。包括される材料であれば、委員会は「病院の持ち出しが増えないか」を必ず確認します。
削除候補は、品目数を増やしたくない病院にとって重要な判断材料です。置き換える現行品と切り替え時期をあらかじめ示せれば、委員会は判断しやすくなります。
申請前に記録しておくべきやり取り
委員会が見るのは書面ですが、その中身は、試用期間中の一人ひとりとのやり取りから生まれます。申請の時点で、次の問いにすぐ答えられる状態にしておきましょう。
- **誰が申請者になるのか。**どの先生、どの部署が最初に必要性を示し、その理由は何だったのか。
- **所属長は納得しているか。**協議はいつ行われ、どんな懸念が出たのか。
- 試用で誰が使い、どう評価したか。「評判は良かった」ではなく、どの看護師がどんな場面で、どんな利点や問題を挙げたのか。
- **どんな懸念が出て、どう対応したか。**委員会でも同じ質問が出る可能性が高いはずです。
- **削除候補は何か。**誰がそれに同意しているのか。
- **採用後、誰が発注し、使用状況をどう追うのか。**採用されたのに使われない、という事態を防ぐためです。
こうした細部は、数か月の試用期間中に、訪問、電話、メッセージのあちこちに散らばっていきます。申請直前に探し始めても、たいてい間に合いません。やり取りを日々記録する方法は、BtoB営業で顧客とのやり取りをすべて記録する方法で解説しています。
時間軸で読み直す:見送られた申請
以下は仮想のシナリオです。 ある営業担当者が、中規模の自治体病院に新しい創傷被覆材を提案しています。病棟で2か月試用し、看護師からは処置時間が短くなったと好評でした。営業担当者は手応えを感じ、委員会の結果を待っていました。
結果は、次回への持ち越しでした。理由を尋ねると、次のことがわかりました。
- 申請者の先生は前向きだったが、所属長との協議が遅れ、申請書の提出が期限ぎりぎりになった。添付資料の一部が間に合わなかった。
- 委員から、現在採用している被覆材と比べた処置1回あたりのコストを問われたが、資料に比較がなかった。
- 削除候補が示されておらず、品目が増えるだけになる点を指摘された。
- 保険上は包括される材料だったが、病院の持ち出しがどう変わるかの説明がなかった。
どれも製品そのものの問題ではなく、申請の準備の問題です。試用の最初に申請期限と所属長の協議日程を確認し、試用中にコスト比較と削除候補を準備していれば、結果は違っていたかもしれません。
医療機器の場合:機種選定と予算
ここまでは主に診療材料の話です。医療機器では、機種選定や仕様決定を委員会で審議し、そのうえで年度予算に乗せる流れが一般的です。川崎市立井田病院の要綱でも、一定額以上の医療器械について、仕様の決定や機種の選定を委員会で審議することが定められています。機器の営業にとって最も重要な締め切りは、委員会の開催日よりも、来年度予算の要求時期であることが少なくありません。
採用された後
委員会での採用は、「購入してよい」という意味にすぎません。その後には、用度・調達、契約、予算が続き、それぞれの段階でまた案件が止まる可能性があります。購買の段階で案件が止まる理由と、その読み解き方は病院の購買プロセス:臨床の承認はゴールではないで、試用はうまくいったのにその後が動かない場合は試用から購入へ:うまくいった試用がなぜ受注につながらないのかで解説しています。
試用中の根拠を、いつでも取り出せるように
委員会に必要な情報は、数か月にわたる訪問、試用、メッセージの中に散らばっています。誰が申請者で、所属長は何と言い、どの看護師がどんな利点を挙げ、誰がコストを気にしていたのか。多くのSFAは「何回訪問したか」は記録しても、こうした中身をまとめて取り出すことはできません。
VINEQRA は、案件に関わるステークホルダー一人ひとりとのやり取りを記録する iOS アプリです。申請の前に、これまでの打ち合わせで集めた根拠や懸念を振り返り、何がそろっていて何が足りないのか、各部門がいまどこで止まっているのかを確認できます。
よくある質問
診療材料委員会では何が審議されますか?
新しい材料や機器を採用するかどうかに加えて、既採用品の削除、試用、適正な使用と管理などが審議されることが一般的です。採用の判断では、承認・認証、保険上の扱い、臨床的な有用性、現行品とのコスト比較、現場への影響などが見られます。
営業担当者は委員会に申請できますか?
多くの病院では、申請するのは院内の医師や職員です。たとえば川崎市立川崎病院の規程では、新規購入を希望する職員が所属長と協議したうえで申請します。営業担当者の役割は、申請者が必要な資料をそろえられるよう支えることです。
申請の締め切りはいつですか?
病院によって異なります。川崎市立川崎病院の規程では、委員会開催の1週間前までに申請することとされています。試用を始める段階で、次回の開催日と締め切りを確認しておくことが大切です。
「一増一減」とは何ですか?
新しい品目を1つ採用する際に、既存の品目を1つ削除候補として示すという考え方です。旭川医科大学病院の医薬品採用では原則とされています。材料でも品目数を抑えたい病院は多く、置き換える現行品を示せると審議が進みやすくなります。
採用されれば、すぐに発注されますか?
必ずしもそうではありません。採用は購入してよいという意味であり、その後に院内コードの登録や発注、予算の手続きが続きます。採用後に使用されなければ、削除の対象になることもあります。